
フクバカ ~働く男の昼休み~vol.2

はじめに
シゴトバカタログbyあどば編集部の服バカこと「M」と申します。
(服のサイズはXLですが…)
『フクバカ ~働く男の昼休み~』では、妻の手作り弁当でランチ代を浮かせながら、魂が反応する一着を求めて、街の服屋さんを巡る服バカ営業マンの気ままな昼休みのひとときを、ゆるっと楽しみながら、ちょっぴり真面目に綴っていきます。
魂、震えるスニーカー。心、フライングホイールに連れ去られ…
富岡周辺での打ち合わせを終え、今日は少年野球場の駐車場でランチタイムだ。
車内に広がる、出汁のやさしい香り。
今日の弁当は「鯛めし」だった。肉派の私も、思わずニンマリ。
ありがとう、うまかった。
いつものごとく、妻が早起きして作ってくれた弁当を10分でたいらげる。
午後イチのアポまで、残り40分。
…よし、今日は“あそこ”に行こう。
上越ウィングマーケットセンターのPATIOの1階。
ネオン管が静かに光る「Dessert Hill's Market」に昼休みの希望を託す。
出迎えてくれたのは、スタッフの「大井さん」。
業界経験も長く、大井さんを慕って遠方から足を運ぶファンがいるほどのカリスマ性のある方だ。
それでもまったく偉ぶることなく、いつも気さくで、自然体のトークが心地いい。
流行や売れ筋だけでなく、「その人の趣味嗜好」をしっかり見てくれる。
だからこそ、服のことはもちろん、コーディネートまで相談したくなってしまう。
「Mさん、これ好きでしょ!?」
と早速紹介されたのは、FLAT HEADのウォバッシュストライプのデニムベスト。
『…やられた』
まさに好物。たまらず「大好きです!」と反応してしまう。
ここで止まればよかった。わかっている。危ない。これは危ないやつだ。
しかし、このサイズ感…丈と身幅のバランスが、XL体型に最高に優しすぎる。
『試着だけ、試着だけなら…』
そう言い聞かせながら、ワイシャツの上から羽織ってしまった。
――圧倒的敗北である。
シャツ+ベストの組み合わせで、鏡の前の自分がちょっぴり“ イケオジ ”に見えてしまう。
まずい、ちょっとテンション上がってる自分がいる。
ひとまず深呼吸をして、気をそらすように店内を回ると――
鮮やかなオンブレチェックのレーヨンシャツに目がとまる。
ふと視線を戻すと、大井さんもさりげなくイエローを着こなしていらっしゃる。
そして、鷹刺し風のプリントが強烈なインパクトを放つTシャツ。
立体的すぎて、思わず刺繍と見紛うほどだ。
ウォバッシュ、オンブレ、鷹モン…
物欲センサーは、すでに警報レベル寸前だ。
そして目に入ったのは、味が出まくったライダースやブーツ、デニムの数々。
「これも売ってるんですか?」と聞くと、大井さんは少し笑って、
「いえ、僕の私物です。1年育てるとこうなるんです、みたいな―― 経年変化やデニムの色落ち、レザーのシワの入り方なんかも見てもらいたくて」
“服の未来”まで見せてくれる。
伝える視点がひと味違う人の言葉って、やっぱり刺さる。
私も、仕事でお客様と向き合う一人として――
こういう観点を持ちたいと素直に思った。
そして――
今日も“魂が震える一品”に出会ってしまう。
某スポーツブランドの名作にインスパイアされた一足。
ヒールには、FLAT HEADの象徴「フライングホイール」の刺繍が輝く。
見れば見るほど、胸の奥がジリジリと熱くなる。
フォルム、質感、刺繍の立体感――すべてが素敵すぎる。
『今日は買わない...いや、買えないのだ』
『そもそも、スニーカーはもう両手で数えきれないくらい持ってる』
『…っていうか、足は2本しかないんだよ、俺』
『俺の足、2本じゃなくて10本だったらよかったのに(カニか!)』
そうやって訳の分からない問答を心のなかで繰り返し――
フライングホイールの刺繍に心、連れ去られる前に強制タイムアップ。
警戒レベルMAXにつき、おこづかい制サラリーマンの防衛本能が最後の砦となった。
あっという間の40分。時間厳守が私の流儀だ。
魂を刺激する一着との出会いが、午後の仕事に向き合う私の原動力にもなる。
次の昼休みも、またこの街のどこかで。
どんな服と、どんな刺激に出会えるのか。
楽しみは、まだ尽きそうにない。